アメリカで離婚する時に、税金関係で気を付けることがいくつかあります。離婚してから後悔しないよう事前によく理解しておきましょう。

1. 申告ステータス(Filing Status)はHead of Householdが有利

申告ステータスは、離婚によって独身になった場合にはSingle(独身)またはHead of Household(特定世帯主)のどちらかとなりますが、Standard Deduction(標準控除)および税率の観点でHead of householdの方が有利であると考えてよいと思います。(例えば例えば$50,000の課税所得があった場合、Singleステータスだと税率は22%ですが、Head of Householdステータスだと12%です。)離婚後にHead of Householdで申告する権利があるかどうかはよく検討しておくことをお奨めします。
また、離婚が成立前でも配偶者と別に申告をすることになる場合、条件によってみなし未婚としてHead of Householdを選択できる可能性があります。

Head of Householdの条件

  • 未婚またはみなし未婚
    • その年の12月31日時点で未婚であるか、または税法上みなし未婚とされることが必要です。みなし未婚とは、配偶者と別居しており、少なくともその年の最後の6ヶ月間は同居していない場合を指します。
  • 扶養家族(Dependent)がいること
    • 扶養家族として認定される子供、継子、養子、またはその他の親族がいることが必要です。この扶養家族は、その年の半分以上あなたと同居している必要があります。
  • 家計の半分以上を負担していること
    • あなたがその年の家計の半分以上を負担していることが必要です。家計には、住居費、食費、光熱費などが含まれます。

Filing Statusのうち、Married Filing Jointlyは、12月31日に婚姻状態でなければ選択することができません。したがって年末に離婚が成立している場合はSingle(独身)またはHead of Household(特定世帯主)のどちらかになります。

実際に離婚が成立していなくても、配偶者と別居している場合はHead of Householdを選択できる可能性があります。何らかの理由でMarried Filing jointlyを選択しない場合に、Head of Householdを選択できると税制上も不利になることを避けられます。

2. 扶養家族の取り決め

離婚後に、お子様などの扶養家族をどちらのタックスリターンで扶養家族(Dependent)として報告するのかは事前に合意しておくことをお奨めします。まれに扶養していない側の親が先にお子様を扶養家族として申告してしまい、リファンドを手にしてしまう、というケースもあるので注意が必要です。扶養家族(Dependent)として報告するためには、IRSによって定められた条件を満たしている必要があるため、離婚後の実態に即して検討・合意しておく必要があります。

Dependent(扶養家族)のためのDeduction (控除)やCredit (税額控除)には、主に以下のようなものがあります。

Deduction(控除)

Deduction(控除)内容
Medical Expense Deduction
(医療費控除)
扶養家族の医療費が総所得の7.5%を超える場合に控除できます。
Education Expense Deduction
(教育費控除)
扶養家族の教育費用に対する控除が適用される場合があります。

Credit(税額控除)

Credit(税額控除)内容
Child Tax Credit
(子供税額控除)
17歳未満の子供1人につき最大$2,000の税額控除が受けられます。
Additional Child Tax Credit
(追加子供税額控除)
Child Tax Credit(子供税額控除)を全額受けられない場合に、追加で最大$1,500の還付可能な税額控除が受けられます。
Credit for Other Dependents
(扶養家族税額控除)
子供税額控除の対象外の扶養家族1人につき最大$500の税額控除が受けられます。
Earned Income Tax Credit, EITC
(勤労所得税額控除)
低所得者向けの税額控除で、扶養家族の数に応じて控除額が増加します。
Child and Dependent Care Credit
(子供・扶養家族ケア税額控除)
扶養家族のケア費用に対する税額控除で、最大で支払った費用の35%が控除されます。
Adoption Credit
(養子縁組費用税額控除)
養子縁組にかかる費用に対する税額控除で、最大$14,890が控除されます。
American Opportunity Credit
(アメリカン・オポチュニティ・クレジット)
扶養家族の大学教育費用に対する税額控除で、最大$2,500が控除されます。
Lifetime Learning Credit
(ライフタイム・ラーニング・クレジット)
扶養家族の高等教育費用に対する税額控除で、最大$2,000が控除されます。

3. Alimony (配偶者扶養費)とChild Support(養育費)

2019年以降に成立した離婚についてはAlimonyに対する税制度が変わっており、現在ではAlimoni, Child Supportともに、それを支払う側は税控除の対象にはならず、受け取る側は所得に含める必要がないことになっています。

Alimony (配偶者扶養費)

Alimoniyは、支払う側は税控除の対象にはならず、所得から控除することができません。受け取る側は所得として申告する必要はありません。

Beginning January 1, 2019, alimony or separate maintenance payments are not deductible from the income of the payer spouse, or includable in the income of the receiving spouse, if made under a divorce or separation agreement executed after December 31, 2018. Divorce or separation may have an effect on taxes | Internal Revenue Service

Child Support(養育費)

Child Supportは、支払う側は税控除の対象にはならず、所得から控除することができません。受け取る側は所得として申告する必要はありません。

Child support payments are not taxable to the recipient (and not deductible by the payer). When you calculate your gross income to see whether you’re required to file a tax return, don’t include child support payments received.  Alimony, child support, court awards, damages 1 | Internal Revenue Service

4. 財産分与と税金

離婚時の財産分与は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を公平に分割するプロセスです。財産分与の対象となるのは、共同で所有している財産や負債です。これには、住宅、車、銀行口座、投資、退職金、そして負債(ローンやクレジットカードの残高)などが含まれます。

財産分与に関する税金の扱いは、以下のように異なります。

  1. 財産分与そのもの: 財産分与は、通常、税金の対象にはなりません。つまり、財産を受け取った側も、財産を譲渡した側も、その分与自体に対して税金を支払う必要はありません。
  2. 資産の売却: 財産分与の一環として資産を売却する場合、その売却益に対してキャピタルゲイン税が課されることがあります。例えば、家を売却して得た利益は、通常のキャピタルゲイン税の対象となります。
  3. 退職金や年金: 退職金や年金の分割は、特定の手続きを経ることで、税金の負担を最小限に抑えることができます。Qualified Domestic Relations Order(QDRO)を利用することで、退職金や年金の分割が可能となり、受け取る側が税金を支払うタイミングを遅らせることができます。
  4. 住宅の持ち分: 住宅を分与する場合、その持ち分に対しても税金が発生する可能性があります。例えば、住宅を売却せずに一方の配偶者が持ち続ける場合、その後の売却時にキャピタルゲイン税が発生することがあります。

タックスリターンの申告ステータス(Filing Status for Tax Return)はどれを選べばいいのか?またどれがお得なのか?

タックスリターンの「Filing Status」(申告ステータス)とは、納税者の税務上の状況を示す分類のことです。これにより、適用される税率や控除額が決まります。申告ステータスは、納税者の婚姻状況や扶養家族の有無などに基づいて選択されます。それぞれのステータスには特定の条件があり、適切なステータスを選ぶことで税金の負担を軽減することができます。具体的な条件や詳細については、IRS(米国国税庁)のウェブサイトや税理士に相談することをお勧めします。

Filing Status (申告ステータス)対象特徴
Single (独身)その年の12月31日時点で独身の人。最も基本的な申告ステータスで、他のステータスに該当しない場合に使用します。
Married Filing Jointly (夫婦合算申告)その年の12月31日時点で結婚している夫婦。夫婦の収入を合算して申告するため、税率が低くなることが多いです。多くの控除やクレジットを利用できるため、一般的に最も有利なステータスです。
Married Filing Separately (夫婦別々申告)その年の12月31日時点で結婚しているが、夫婦が別々に申告する場合。夫婦合算申告に比べて税率が高くなることが多いですが、特定の状況(例えば、配偶者の税務問題を避けたい場合など)では有利になることもあります。
Head of Household (世帯主)独身で、かつ扶養家族がいる場合。独身ステータスよりも有利な税率が適用され、特定の控除が利用できます。扶養家族のために家計の半分以上を負担している必要があります。
Qualifying Widow(er) with Dependent Child (寡婦または寡夫)配偶者を亡くした後、2年間このステータスを使用できます。扶養家族がいることが条件です。夫婦合算申告と同じ税率が適用されるため、税負担が軽減されます。

連邦の所得税率から考えて税負担割合が小さいと考えられるものから

独身の場合(12/31時点で)

  1. Married Filing Jointly (ただし当年に配偶者が死亡した年のみ)
  2. Qualifying Widow(er) with Dependent Child
  3. Head of household
  4. Single

結婚している場合(12/31時点で)

  1. Married Filing Jointly
  2. Married Filing Separately

となります。ただし、全体の税負担は所得以外に様々な条件によって決まるので、それらを考慮して最終的に申告ステータスを決めることになります。

米国税理士とは英語でEnrolled Agent (EA) と呼ばれ、アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)によって認定された税務専門家です

アメリカでは所得を得た人は原則すべてタックスリターンの申告をする必要がありますが、それを正確かつ効率的に申告できるように支援するのが税理士 (EA)や会計士 (CPA)の役割です。タックスリターンの観点ではEAもCPAも同等の権限をもってクライアントの税務上の問題に対応できます。

Enrolled Agent (EA)

Enrolled Agent (EA) は、アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)によって認定された税務専門家です。EAは、税務上の問題について全ての納税者を代理し、IRSの各オフィスで活動する権限を持っています。EAは、以下のような役割を担います:

  • 税務申告の提出(タックスリターン): 個人、パートナーシップ、企業、信託、相続人などの税務申告を行います。
  • 税務相談: 税務計画や税務問題のアドバイスを提供します。
  • 税務調査の代理: IRSの調査や控訴において納税者を代理します。
  • 税務訴訟の代理: 税務上の紛争を解決するために訴訟を行います。

EAの資格取得には、3部構成の試験(Special Enrollment Examination、SEE)に合格するか、かつてIRSの従業員であった経験が必要です。また、EAは3年ごとに72時間の継続教育を受ける必要があります。

※ IRSのEnrolled Agentについての情報はこちら

CPA(Certified Public Accountant)

CPAは、州ごとに認定された公認会計士であり、会計や税務に関する幅広い知識とスキルを持っています。CPAは、以下のような役割を担います:

  • 財務報告: 企業や個人の財務状況を評価し、財務報告を行います。
  • 監査: 企業の財務状況を監査し、公正性を確認します。
  • 税務申告: 企業や個人の税務申告を行います。
  • 財務計画: 企業の財務計画や戦略を立案します。

比較

  • 専門分野: EAは税務専門家であり、CPAは会計と税務の両方に精通しています。
  • 資格取得: EAはIRSによって認定され、CPAは州ごとに認定されます。
  • 役割: EAは税務上の問題を専門とし、CPAは財務報告や監査も行います。
  • 代理権限: EAは全ての納税者を代理でき、CPAは州ごとに制限があります。

このように、EAとCPAはそれぞれ異なる専門分野と役割を持っていますが、どちらも税務に関する知識とスキルを活かして、企業や個人のために貢献しています。

EAの資格試験について

EA資格は、アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)が認定する国家資格で、税務に関する専門知識を証明するものです。この資格を取得することで、アメリカ国内で税務申告業務を行うことができます。

試験内容

EA資格試験は、以下の3つの科目から構成されています:

  • Individual Tax (試験時間:2時間30分)
  • Business Tax (試験時間:2時間30分)
  • Representation, Practices, and Procedures (試験時間:2時間)

受験資格

EA資格試験には、18歳以上であれば誰でも受験できます。学歴や職歴の制限はありません。

試験の難易度と準備期間

EA資格試験は、日本の税理士試験と比較すると難易度が低いとされています。初学者でも学習開始から6ヶ月~8ヶ月程度で準備が可能です。試験はすべて四肢択一問題で、記述問題はありません。

試験の特徴

  • 試験形式:四肢択一問題のみ
  • 合格率:各科目の合格率は約60~70%
  • 短期間での合格:初学者でも短期間で全3科目合格を目指せる

資格取得後のメリット

EA資格を取得すると、名刺に「EA(米国税理士)」と記載できるようになり、実務経験なしでも「EA(米国税理士)」として登録可能です。これにより、税務業務のステータスアップや転職・就職でのアピールが可能です。

個人所得税(州税)を徴収しない州

state tax

アメリカにおいて個人所得税(州税)を徴収しない州とその税当局のウェブサイトを以下の表にまとめました。

これらの州では個人の所得税(Income Tax)は徴収しませんが、消費税や不動産税、利子や配当所得に対して税金が課される場合があるので各州のルールを確認するようにしてください。

州名税当局ウェブサイト
アラスカ州http://tax.alaska.gov/
フロリダ州https://floridarevenue.com/
ネバダ州https://tax.nv.gov/
サウスダコタ州https://dor.sd.gov/
テネシー州https://www.tn.gov/revenue
テキサス州https://comptroller.texas.gov/
ニューハンプシャー州http://www.revenue.nh.gov/
ワシントン州https://dor.wa.gov/
ワイオミング州http://revenue.wyo.gov/

アメリカと日本の確定申告の違い

tax return difference us vs japan

日本では、会社員や公務員などは年末調整によって所得税が調整されるため、特別な場合を除いて確定申告をする必要はありませんが、アメリカでは確定申告を「タックスリターン(Tax Return)」と呼び、給与所得者、自営業者、投資所得者など、収入がある人は全員、連邦IRSと州の税務当局に確定申告書を提出する必要があります。

主な違い

  • 申告義務: アメリカでは全ての収入がある人が確定申告を行う必要がありますが、日本では特定の条件を満たす場合のみです。
  • 申告方法: アメリカでは、連邦税と州税の両方を申告する必要がありますが、日本では一箇所にまとめて申告します。
  • 税理士の利用: アメリカでは、納税者が自ら税金を計算し申告することが一般的であり、税理士の助けを借りることが多いです。一方、日本では、会社員や公務員は年末調整によって税金が調整されるため、税理士の利用は自営業者や特定の条件を満たす個人に限られます。

アメリカの確定申告

  • 申告義務者: アメリカでは、給与所得者、自営業者、投資所得者など、収入がある人は全員、連邦IRSと州の税務当局に確定申告書を提出する必要があります2。
  • 申告期限: 毎年4月15日が申告期限です。
  • 税率: アメリカの所得税は累進課税制度を採用しており、連邦税と州税が存在します。
  • 控除: 住宅ローン利息控除や教育費控除など、さまざまな税額控除があります。
  • 税理士との関係: 所得税については源泉徴収の仕組みが無く、仕組みを複雑であるため、多くの個人が税理士の助けを借りることが一般的です。

日本の確定申告

  • 申告義務者: 日本では、会社員や公務員などは年末調整によって所得税が調整されるため、特別な場合を除いて確定申告をする必要はありません。
  • 申告期限: 毎年3月15日が申告期限です。
  • 税率: 日本の所得税も累進課税制度を採用していますが、最高税率は45%です。
  • 控除: 医療費控除や住宅ローン控除などがあります。
  • 税理士との関係: 所得税の源泉徴収の仕組みがあるため会社員や公務員にとっては税理士はあまりなじみがなく、確定申告が必要な個人や自営業者、企業が税理士を利用することが一般的です。特に、複雑な税務処理や節税対策を必要とする場合に税理士の助けが求められます。